後日譚ならびに後書き

 『靴十夜』というタイトルはもちろん夏目漱石の『夢十夜』から来ている。だが内容も形式も、何の関係もない。

 『長靴』『デッキシューズ』は、実在の事件にもとづいて書かれている。『布カジュアル』も実体験をある程度ふまえている。接客業の経験者は、誰もが似たような経験をしていることと思う。『ビーチサンダル』は、はじめ幽霊譚にしようと思ったところ、こうなってしまった。『アウトドアシューズ』は中国の昔話のアレンジ。『防寒ブーツ』は、古今和歌集をめくっているときに思い浮かんだイメージを文章化した。
 もともとは縦書きで発表したものを、Web掲載にあたって横書きに沿うよう一部の表記を改めた。拙い文章は、改稿したい気持ちを抑えて、そのまま残すことにする。ずいぶん1文が長い文章を書いてたのね、自分……。

 『靴十夜』を書き上げてからおよそ1年後に店を訪ねている。その際、登場人物のモデルとなった人たちの消息をメモに書き留めておいたので、ここに紹介しておこう。

 長尾は、相変わらず店の重鎮として、職務に大学生活に忙しいようだ。
 堀さんは、その年の秋にご結婚ということで、10月には退職されるらしい。村長さんの元気な姿を見れないと思うと、一抹の寂しさを禁じ得ない。
 田山さんと早瀬さんは、饒舌ともども健在である。
 島中は、いったん地元で就職したものの、すぐに退職してしまい、その後地元を離れたということだ。
 砂糖は、いや、佐藤は、高校を卒業したあと、酒屋の配送業務をやっているとのことだった。
 野上は、かねてからの希望どおり、京阪電車に就職したそうだ。どこかの改札で切符を切っているのではないかと探しているのだが、まだお目にかかれない。
 徳長、安家ともに大学生活を送っているはずであるが、消息を聞かない。
 島店長は、今でも私が店で靴を買うと値引きしてくれる。相変わらず西大津(※現 大津京)駅前のパチンコ店で良い思いをしているのだろうか。

 なお、本作は完成後、同人誌としてオフセット印刷され、店の皆にも配布された。概ね好評だったのだが、皆から異口同音に「人をSSのネタにしておきながら自分だけ登場しないなんてズルい」と言われた。だって自分をキャラとして出したりするのは恥ずかしいじゃないですか!


これは ryecroft Advent Calendar 2018 13日目の記事です。