第六夜 アウトドアシューズ

 夜になると、灯りを求めて虫が店に集まってくる。その日は全員、大量に発生したユスリカ(通称ビワコムシ)の処理に追われていた。床と言わず靴の中と言わず、いたるところに飛んできてはあっけなく死んでしまうユスリカは、この店にとって最大の天敵だった。

 長尾、島中、佐藤の3人(佐藤はサボっていたので、正確には2人)は、せっせとユスリカの死骸を掃除しながら、夏の夜につきものの怪談に花を咲かせていた。が、やがてそこから脱線して、幽霊が実在するかしないかの議論になった。

 長尾と佐藤は、本気では幽霊を信じていなかったのだが、島中は、あやしげな雑誌から得た知識を総動員して、幽霊は実際にいることを主張し、一歩も譲らなかった。その態度に反発を感じた2人に反抗心が起こった。2人は否定的意見を島中の前に並べ立てた。「科学的でない」「証拠がない」「見てない人の方が多いのはどういうわけか」「幻覚にすぎない」「テレビ局のやらせ」などなど……。
 島中が言いくるめられそうになったとき、助っ人があらわれた。
「幽霊はやっぱりいると思いますね」
 見ると、いつの間に入ってきたのか、少年が一人立っていた。安物のアウトドアシューズを履いている(人の靴を見るのは靴屋の店員の習性である)。高校生くらいの、やせた、背の高い彼の話好きな様子につられて、いつしか、その男を交えて幽霊存在論議が続けられた。

 しばらくすると、客を相手にしていることも忘れて、ふたたび長尾と佐藤は「幽霊はいない」を熱心にプッシュしていた。少年はみずから議論に飛び込んできたくせに、あまり自分の意見もないらしく、島中の意見に同調しているばかりだった。

 やがて、先ほどとまったく同じように、少年と島中は言いくるめられてしまった。少年は、それでも納得のいかない、戸惑ったような顔をして、口を開いた。
「皆さんの話を聞いていると、やっぱり幽霊はいないと信じるしかないように思えてきますが、それでも納得できないんです。だって、僕……」
 困ったような笑みを浮かべた少年の姿は、3人の見ている前でみるみる薄くなり、煙のように消え失せてしまった……。


これは ryecroft Advent Calendar 2018 8日目の記事です。