第四夜 テニスシューズ

 今日も朝からよく晴れており、東の空には遠く積乱雲が広がっていた。夏休みに入ってからは、暇をもてあましたアルバイトたちが昼間から店に出勤してくるので、店では店員の飽和状態が続いていた。
 そんなわけで、昼間から店に出ても仕事がない長尾と安家は、野上を交えて、昼前から島中の家に押しかけ、庭先でバーベキューをしようとたくらんでいた。

 安家徹夫は、ファミコン少年がそのまま大学生になったようなものであった。彼の自宅にはすべてのゲーム機がそろっており、バイト代をすべてつぎこんでゲームソフトを買っているという噂であった。彼は長年ゲームに親しんできたために体の動作までがデジタル化していたが、思考回路は単純であり、そこから導き出される行動パターンもまた必然的にアバウトなものとなっていた。

 そもそも、このバーベキューは、大学生アルバイトだけで実施することになっていたのだが、近所のスーパーに食材を買い出しに行った際、運悪く自転車で通りがかったインセクト野上に発見されてしまったのだ。彼は、昆虫のみが持つ感覚で何があるのか察知したらしく、招待されもしていないのに島中の家までついてきてしまった。
 野上はいつもの婦人物テニスシューズを履いていた。足のサイズがあまりに小さいために、もっとも小さい紳士物すら彼には大きすぎたのである。

 島中家の駐車場に入ると、野上は停止した自転車に乗ったきり、両足を上げたままバランスを取っている。何をしているのかと尋ねられると、彼はバランス感覚を訓練しているのだという。昆虫の考えていることはわからない、と言うなり、島中は野上を小突いた。野上はけたたましい音を立てて転倒した。

 火をつけるのは長尾たちにまかせ、島中は野菜の仕込みにかかった。もちろん、島中には料理の経験など皆無に等しい。キャベツは千切りにされた。ジャガイモは皮付きのまま4つに切られた。ニンジンの輪切りは厚さが2センチもあった。タマネギは横に真っ二つにされた。それらをあらかじめ茹でるという考えは、ついぞ島中の頭には浮かばなかった。
 島中がタマネギのせいで涙をボロボロ流しながら野菜を持っていくと、
「やっと火がついたぞ」
と長尾が得意そうに言った。コンロからはキャンプファイヤーのごとき猛炎が立ちのぼっていた。

 料理は、食材を無駄にさせまいというほとんど強迫観念に似た義務感によって平らげられていた。口にこそ出さなかったものの、なぜこんな奴といっしょにバーベキューをすることになったのだろうという思いは誰も同じらしく、恨めしそうな眼を互いに見交わしていた。野上のみが、日ごろの彼の食生活に関する皆の憶測を裏打ちするかのように、豪快な食欲を見せていた。それは、冬眠に入る前に充分な栄養を蓄えんとする昆虫の姿を連想せずにはいられないものであった。


これは ryecroft Advent Calendar 2018 5日目の記事です。